Site menu:

ブログロール

分会リンク

老螳螂掲示板

最近のコメント

最近の投稿

カテゴリー

お勧め書籍

2001年合宿レポート

 海沿いの路を抜けると、そこに現れるのは急な山道である。無論アスファルトによる舗装などされていない。登っても登っても目的地にはなかなか到達せず、呼吸ばかりが荒くなる。足の筋肉は早くも張り始め、殆ど「ファイトぉ~いっぱあ~つ!」の世界。そんな豊かな自然で日常から断絶された世界が、今年度の合宿の舞台となった。
場所は伊豆・下田。季節はそろそろ冬の寒さが忍び寄ってくる11月下旬の3連休。しかし幸い、3日間とも温暖な好天に恵まれ、「皆さんの日頃の行いがよろしいんでしょうねえ」などという宿のオバチャンのお世辞だか皮肉だかよくわからない言葉を背に、参加者たちは一路体育館へ向かう。
そして突然現れたこの「ウォーミングアップにはちょうどいい」(宿のオバチャン・談)山道に面食らうという事態に遭遇したのである。某会員が「トトロに会えそう……」と形容したこの山道は、当然ながら三日間の間、我々参加者を練習以上に疲れさせてくれたのは紛れもない事実である。そして「この路を毎日辿っていればいい練習になるよね。俺、来年もここがいいと思うなあ」などとうそぶいていた奇特な会員が若干名いたことも忘れる事は出来ない。勘弁してくださいよ……。

 さて、今回の合宿のメインは「蟷螂拳対練」である。当会きっての精鋭である市川分会・青砥満、名古屋分会・大野徹両氏が、はるばる中国まで赴いて、作者である王秀遠先生から直々に伝授されてきたものであり、せっかく中国まで出向いて学んできたのだから他の会員たちにも伝えてもらいたいと言う、根本先生をはじめとする熱心な会員たちの強い要望によって、ここで晴れて指導されることが実現した。ということはつまり、日本初上陸であろう。それだけに会員たちの期待は高く、たった今済ませたばかり筈のウォーミングアップにも熱が入る。
  頃合いを見て、青砥・大野両氏が進み出る。
「対練ですので、皆さん二人組みを作り、どちらがどちらのパートをやるか決めてください。……よろしいですか?では見本を見せますので、取りあえずそれを真似て形を覚えてください。各技の用法や質問の受付などの細かい指導はその後にします」
起式を取る青砥・大野両氏。一斉に真似る参加者たち。どの瞳も真剣に、食い入るように二人を見詰めている。何度か見本を繰り返して真似た後、各ペアごとに自分たちで練習し、その間を青砥・大野両氏が回って、個人ごとに指導をして回る。形だけでもさっさと覚えてしまったものは、隣のペアと人を取り替えたり、お互いの役割を交代したり、或いは套路の中で気になる動きをピックアップして各自研究してみたりなど、指導者のふたりが回ってくるまでの間も自由研究に余念がない。回ってくるのを待ちきれずに遠くから質問の声をかける者もおり、終始大忙しの両氏であった。蟷螂拳をこよなく愛する会員たちにとって、煩瑣な日常を忘れて思う存分練習に没頭することの許される、一年にたった一度の貴重な三日間というこの時間。一瞬たりとも無駄にすまいという気迫が、見事に世間から隔離された陸の孤島のようなこの体育館に満ち満ちていた。

 そうかと思えば、練習終了後の夜は当然、宴会になる。一年ぶりに出会う仲間たちとの楽しい交流会だが、お互いの近況などを話しあっていたのが、気づけばいつのまにか武術談義に花が咲いている。つくづく、筋金入りの蟷螂拳士たちである。
一つのことに夢中になればなるほど、時間は速やかに過ぎ去ってしまう。合宿中の限られた時間は、今年も瞬く間に終わってしまった。しかしこの極めて短く感じられる特別な三日間のために、彼らは毎年それぞれの都合をつけて、全国各地からはるばる遠方へ足を伸ばすのだ。ひとえに蟷螂拳を愛するが故に。全国の同じ仲間たちの変わらぬ笑顔とその成長ぶりを目の当たりにしたいがために。そして研究熱心な仲間たちとの交流を通してみずからの蟷螂拳技術や知識、見解を少しでも高めるために。年に一度の合同合宿は、会員一人一人の蟷螂拳にかけるこの熱意によって成り立っているのである。

市川分会 飯塚

Write a comment