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2002年合宿レポート

  今年もまたこの季節がやってきた。
  夏の汗臭さも一段落し、寒稽古と洒落込むにはやや早い、合宿には季節外れのこの時期に、螳螂拳士たちは毎年、こぞってどっかの山奥に集結する。今年は、既にメンバーのほぼ全員が宿の常連となっている奥秩父。「せっかく秩父まで来たんだから温泉いきたーい!」などと西武秩父駅前のバスロータリーで叫びつつ、「今年はどんな合宿になるかな?どんな練習しようかな?」と、心は既に山奥のぼろっちい体育館に飛んでいる不思議な人々、それが日本老螳螂拳研究会のメンバー達である。

 宿のご主人の運転するマイクロバスに迎えられ、一行は山奥の練習場に向う。山道をのんびり辿るバスはなかなか止まらない。人里離れた場所にある会場は、携帯の電波も届かないという関東地方にあるまじき恐ろしい場所である。ちなみに夜は外灯もない。音を上げたものがいても、決して逃げられないのである。それでも遠足に出かけるようにはしゃぎまくる会員の面々、一体何が彼らをそうさせるものやら。
  ようやく到着すると、長旅の疲れを取る間もなく一同、着替えて体育館へ。寒い中、もくもくと練習に備えてストレッチをする孤高の姿たち。中には半袖、半ズボンという信じられない姿の者もいる。この気合の入りよう、日頃の練習風景が目に見えるというものであろう。頃合いを見て、根本先生が立ち上がる。
「ではそろそろ体も温まったかと思いますので、練習に入りたいと思います。今回は自由練習もいいでしょう。それぞれ自分の目的があると思いますので、達成することを考えて三日間頑張りましょう」
  根本先生のご挨拶と共に、いよいよ練習が始まった。
  今回初級班を中心に名古屋分会の大野徹氏による指路拳、小翻車の指導が中心となった。また上級班は摘要拳、八肘拳を行った。
  大野氏は仕事の名目で念願の中国行きを実現、その上中国の王秀遠老師に拝師までしてしまった日本老螳螂拳研究会きっての強者の一人。二年前の10周年記念合宿では、彼の兄弟子に当たる青砥満氏がこの二つの套路の指導にあたったが、今回、大野氏の指導してくれらそれらは、青砥氏の伝えてくれたものとは多少、ところどころで異なる味を持っていた。
「ここの所、青砥さんはこのように教えてくれましたが、私が習ったものはちょっと違っています。青砥さんの時はこのような動き、こういう説明を頂きましたが、私の時はこのような動きでした。これの意味は……」
  形よりも意識に重点を置いた指導を展開する大野氏を、会員達は鋭い眼差しで見つめる。前回習ったものと混同する恐れがあるので、一瞬たりとも気は抜けない。一人で研究や練習をする範囲は限られているが、だからこそ、それぞれの研究の成果を発表しあい、伝え合う事が出来るのがこの合宿の最大のメリットであろう。

 あっという間に時間は過ぎ、食事の時間となった。練習時間は夕食までだが体育館は自由に使用できるため、食後も三々五々と会員が集まり、吐く息の白くなっていく中、空気の次第に鋭くなっていく中、それぞれの練習を行っていた。それぞれの目的を達成――根本先生の言葉が活きる。
「こんなに寒いんだから、もうそろそろ止しなさい。合宿が終わったらまた仕事に戻るんだし、風邪を引いたら困るだろう」
  すっかり冷えてしんと静まり返った夜更けに、先生がそう声を掛けるまで、有志たちの自由練習は続けられた。
  練習ばかりではない。毎年恒例の夜更けまで続く飲み会も、一年に一度しか逢えない全国各地の仲間たちとの貴重な懇親会である。冗談交じりにお互いの近況報告や仕事の愚痴などを交わしながら、こんな時にまで、武術談義に花が咲く。
「何故武術をやるのか、と言われたら……?」
「うーん、自分が強くなっていく事に充実や快感を覚えるからかな」
「それって結局は自己満足だよね。でも、ここまで徹底して自己満足を追求できるものって、他にあるかな?」
  この仲間たちといると、当たり前と言えば当たり前であるが、自然に話しは武術に飛んでしまう。それがまた、面白くて仕方がないのだからやはり妙な集団である。
  そんなふうにして今年もまた、過ぎていく時間を一瞬たりとも無駄にすまいとばかりに、身も心も練習三昧の三日間を、会員たちは送ったのであった。真剣な眼差しにもふとこぼれる笑顔にも、武術が好き、螳螂拳が好き、との純粋な思いが漲っていた。
  日本一素敵な螳螂拳馬鹿どもの集まり。私はこの会をこう呼びたい。

市川分会 飯塚

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